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2021年3月現在の3DCGや映像制作用パソコンのトレンドや選び方について考えてみました。
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好評だったCG・映像制作用パソコンの選び方の2021年版
CG・映像制作用パソコンの選び方は、2年前にお伝えしましたよね。
そうじゃな。しかしパソコンのスペックは変わるからのう。今回は2021年の最新情報をお伝えするぞ。
2019年に公開したCG・映像制作用パソコンの選び方について書いた記事は、いまでも多くの方にご覧いただけています。2年後の現在はCPUやグラフィックボードもさらに高性能化、驚異的性能のApple Silicon Macも登場するなど状況が大きく変わりました。
そんな最新の情報を踏まえて、今回も個人や小規模事業者向けにCG・映像制作用パソコンの選び方をお伝えしていきます。各パーツを選ぶときのポイントなどについて、詳しくは過去記事をご覧ください。
CG・映像制作向けパソコンのトレンドや選定ポイント
2020年末、周りのCG・映像系クリエイターの皆さんが、偶然にも相次いでパソコンを新調。申し合わせたかのようにCPUはRyzen9、グラフィックボードはRTX3090か3080を選択していました。Ryzen人気の理由として、次のような点が考えられます。
- シングルスレッド性能(1コアあたりの性能)
- ソケットの互換性
レンダリングのような並列処理ではコア数が多ければ有利ですが、逆にそれ以外の部分はシングルスレッド性能が重要なことも多いです。
シングルスレッドでも最速。「Zen 3」採用の「Ryzen 5000」シリーズ徹底検証|エルミタージュ秋葉原
パソコンはパーツの増設や交換をしながら使うことが多いので、ソケットの互換性が高ければベースのマザボが長く使えます。Intelよりも安価だったRyzenも徐々に値上がりしてきたので、以前のような割安感は減ったものの、価格に対する価値という意味でのコスパは高いといえそうです。
グラフィックボードは3DCG用途ならNVIDIA一択なので、その最新版である3000シリーズの上位モデルが人気。発売当初の価格は、RTX3090が20万円台前半、3080は10万円台前半、3070は10万円以下(6万円台〜)で、性能なら3090、バランスが良いのは3080、安価ながら前世代の上位モデルRTX2080tiを超える性能を持つ3070という感じの棲み分け。(2021年3月現在は、品薄でグラボ価格も高くなっています)
CPUやグラフィックボードは高性能化にともなって発熱量も上がっているため、必須ではありませんが安定動作や静音の観点から水冷のクーラーがあるとよいかもしれませんね。ちなみに私はグラボをRTX3070に変更しましたが、それは現行パソコンの性能が3080などの高性能なグラボに見合わなかったためです。詳しくはレビュー記事をご覧ください。
3DCGや映像制作ではCPUとグラボが最重要なので、他のパーツはこれらを軸に考えることになると思います(上記、3070のレビュー記事でも書いていますが、高性能なグラボはそれに見合うCPUを使わないと性能を発揮しきれないので注意が必要です)。私のマシンはメモリ64GBですが、複数のDCCツールを同時に立ち上げていても結構快適です。用途や使い方によっては、最初は16〜32GBぐらいでも十分かもしれません。
メモリは必要になってから増設すればよいのですが、マザーボードによって搭載可能な容量が異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。最新のマザーボードなら128〜256GBまで対応しているものもあります。
システムドライブは予算が許す限り高速なものを選択するとよいです。処理速度はもちろん、体感速度が大幅に向上します。 サムスンのSamsung 980 PRO(M.2 NVMe PCIe Gen4 x4)は、私の周りのクリエイターに人気。SSDもメモリと同じくマザボ側が規格に対応している必要があるので要確認です。
「M.2 NVMe PCIe Gen4 x4」とは?
「M.2」は接続端子、「NVMe」は通信プロトコル、「PCIe Gen4 x4」はPCIeという通信規格の第四世代を表します。マザーボードに複数のM.2スロットがあったとしても、すべてのスロットが同じ通信規格とは限らないので注意が必要です。
例えば、私のマシンのマザボ「AB350 Pro4」には2つのM.2スロットがありますが、各スロットの通信規格は「PCIe Gen3 x4」と「SATA3」と異なっており、両方に高速なM.2 SSDを取り付けても一方はSATA3の上限速度になってしまいます。NVMeなどの規格について、詳しくは次の解説記事をご参照ください。
映像系ソフトなどのキャッシュ用ドライブは、システムドライブとは分けるのが無難。私のマシンのシステムドライブは500GBのM.2 NVMeですが、After Effectsを頻繁に使っていたところ、空き容量がキャッシュで埋まりそうになりました。After Effectsのキャッシュ用ドライブは、SATA3程度の通信速度でも問題ないと聞いて余っていたSATA3接続のSSDを増設。今のところ問題ありません。
SSDは読み書きの速さに優れますが、電気的に書き換えを行う仕組み上、一瞬で全データが失われるリスクがあります。HDDは読み書きは遅いものの機械的な構造なので故障の兆候があったり、最悪の場合でもデータを取り出せる可能性があることや、SSDと比べて大容量のものがより安価に購入できることなどから、データ保存用やバックアップ用に最適です。
CG・映像制作歴が長くなっていくとパソコンの台数も増えていきます。その都度パソコンに蓄積された大容量データを移行するのは大変です。そんなときはNAS(Network Attached Storage)が最適。複数名でデータ共有もできます。NASを使うならパソコン側のHDDはそれほど大容量でなくてもよいかもしれません。
重要なのが電源。パーツの高性能化にともなって消費電力も増えているので、余裕を持たせないといけません。高性能なパーツ構成でも、電力供給が足りなければ動作が不安定になったりしますからね。大容量の電源やグラフィックボードの上位機種は非常に大きいので、そのようなパーツを使うときはパソコンケースはスペースに余裕があるものを選ぶ必要があります。
2021年のミドル・ハイクラスCG・映像制作用マシンの事例
次は実際に具体的な構成について考えていきましょう。2020年末に新規にマシンを構築されたCumuloworksさんが、ツイッターでその構成を公開してくれています。RTX3090 x2だけで50万円前後(構築当時の価格)と思われ、すべてのパーツ代を合計すると100万円超え確定のハイエンド仕様。ブログにはパーツ選定のポイントなどが、より詳しく書かれていてとても参考になります。
新しい作業用マシンが完成しました。| Cumuloworks
Cumuloworksさんのメインマシンスペック(Cumuloworksさんのツイートから引用)
- CPU : Ryzen 9 5950X
- M/B : MSI Prestige X570 Creation
- RAM : 128GB (4x G.Skill Trident Z Neo 32GB)
- SSD : Corsair Force MP600 2TB x1
- GPU : 2x RTX 3090
- CHA : Fractal Design Define 7 XL
- PSU : Corsair AX1600i
続いては昨年末、C3D初のオンライン勉強会にも参加していただいた岡さんのマシン構成。詳細は不明ですが、写真からRyzen9とRTX3080を軸にSSDはサムスン 980 PRO、マザボはX570チップセット採用モデルであることがわかります。メモリは64GBとのことですが、128GBまで増強可能と思われます。これで40万円というのは、非常にコスパが高いですね。
今から久方ぶりのPC自作です!総額40万円だから失敗できません!! #PC自作 pic.twitter.com/3i4szMyfx0
— tomo oka/A-PLUS-STUDIO (@greenlight_tomo) December 3, 2020
岡さんのマシンを参考にしたミドルクラスマシンの構成は次のようになるかなと思います。2020年末の価格帯であれば、大体40万円ぐらいいけるんじゃないでしょうかね。私もいま新しいマシンを組むなら、このような構成にすると思いますが、静止画だけ、ZBrushだけというように、もう少し用途を絞るとここまでのスペックは必要ないですね。
予算40万円程度で組めそうなマシンスペック(2020年末の価格帯で試算)
- CPU : Ryzen 9 5900X
- M/B : X570チップセット
- RAM : 64GB
- SSD(システム): NVMe M.2 1TB
- SSD(キャッシュ) : 1TB(SATA3)
- HDD : 8TB x2
- GPU : RTX3080
- ケース : Fractal Design Define 7 XL
- 電源 : 1200W
マシンスペックは2〜4年で変わることを踏まえて考える
最新マシンのスペックと比較するため、過去記事に掲載した皆さんのマシンスペックを改めて見てみましょう。やしろさんが2018年末頃にBTOパソコンのサイコムで購入したマシンは現在でも十分通用するスペックで、賢いパーツ選びをされていると思います。しかし2年後の現在、同等の予算でさらにハイスペックなマシンが構築可能です。
やしろさんのマシンスペック(2018年末頃のモデル)
- 価格: 約345,000円(税込)
- CPU: Intel Core i9 9900k(3.6GHz 8コア 16スレッド)
- RAM: 32GB(16GB x2)*後日増設して64GBに変更。
- SSD: M.2 500GB
- HDD: SATA3 2TB *後日4TB増設。
- GPU: GeForce RTX2080 8G
- マザーボード: Z390
- ケース: CoolerMaster CM690III
- 電源: 80 PLUS GOLD 750W
- その他: 3年延長保証
モジョンさんが会社で使っている2017年に構築されたマシンは、当時のハイエンドグラボGTX1080tiを2枚搭載しており、約87万円。映像制作会社で高い処理能力が必要な案件を数多くこなしているモジョンさんにとっては、安いぐらいだと思います。
モジョンさんのマシンスペック(2017年モデル)
- 価格: 約868,000円(税込)
- CPU: Intel Core i7 6950X(3.0GHz 10コア HT対応)
- RAM: 128GB(16GB x8)
- SSD: M.2 512GB
- SSD: 960GB
- HDD: SATA3 4TB
- GPU: GTX1080ti 11GB x2
- マザーボード: X99
- ケース: DAIVオリジナル
- 電源: 80 PLUS GOLD 1200W
追記:モジョンさんに最新つよつよマシンスペックをいただいたので合わせてご覧ください!
モジョンさんのマシンスペック(2019年モデル)
- 価格: 約650,000円(税込)
- CPU: Ryzen 9 3900X
- RAM: Samsung 128GB(32GB x4)
- SSD: Corsair M.2 NVMe 2TB
- GPU: ELSA GeForce RTX2080ti 11GB x2
- マザーボード: ASROCK X570 Creator
- ケース: Cooler Master Silencio S600
- 電源: Corsair AX1600i 1600W [80PLUS TITANIUM]
補足:
モジョンさんの会社では、NASを使われているのでパソコン内にはストレージが不要なんだと思います。2019年なので、グラボはRTX2080tiですが、いまでも十分ハイスペックですね。スペックを強化しているのに、2017年マシンと比べて20万円も安くなっているのは驚き。ストレージが減り、BTOから自作になったことも価格を下げた要因だと思います。
パソコンは2〜4年でかなりスペックが変わるので、それぐらいの周期で増強や買い替えを行っていく前提で予算や構成を考えていくとよいでしょう。
わずか2〜4年で結構変わるものですね〜
特にグラフィックボードは驚異的に進化しておるのう。
そのぶん、大きさとか消費電力とかもエグい感じになってますけど…
そうじゃのう。現在のような形で進化し続けたら一般家庭では電力が足りなくなりそうな勢いじゃ。
マシンは自作よりもBTOがお勧めな理由
高額になりがちなCG・映像制作用マシンは金額だけを考えれば各パーツを最安ショップで購入して自作するのが一番ですが、お勧めはBTOになります。
私は2018年末にドスパラでBTOマシンを購入。自作の経験値が低く、そこに時間をとられたくなかったため、希望に近い構成のマシンをできるだけ安く提供しているショップを探しました。BTOをお勧めする理由は次のとおりです。
- 保証がある(トラブル発生時にも安心)
- マシン構築の時間を省ける(組み合わせなどに悩まなくてよい)
2020年末頃に自作でマシン構築をしている方で、RyzenやRTX3000シリーズで不良品を掴んでしまったというツイートが散見されました。どんな製品にも不良品はあるし、新製品となればその可能性も高くなりそうです。もちろん保証期間内なら交換してもらえますが、どの部品に問題があるのかを絞り込む必要はあります。こういうのが自作の一番大変なところですね。
私がBTOマシンを購入したときは、選べるパーツの自由度が高いショップはBTOパソコンのサイコムしか知りませんでした。そのときは予算の都合で断念。しかしその後、他にも優良なショップが幾つかあることを知りました。
お勧めBTOパソコンショップ
幾つかお勧めのBTOパソコンショップをご紹介します。いずれのショップもパーツ選択の自由度は高いのですが、保証の手厚さ、注文システムの充実度など、ショップごとの特徴を踏まえて選ぶとよいでしょう。
サイコム
BTOパソコンのサイコムは、パーツの選択肢が充実しており、ケース天板の防塵フィルターのようなオリジナルオプションも用意。CGWORLDに掲載された記事広告によると、法人の場合は細かな要望を聞いて特別仕様のマシンを作ってくれることもあるようです。
標準サービスの範囲でも、保証が2年間(有償で3年まで延長可能)あり、無償オーバーホール(内部清掃、CPUグリス塗り直し、BIOSやドライバ更新など)、アップグレードサービス(パーツの増設やアップグレードの相談から、取付代行や下取りまで)など、購入後のサポートも充実しています。
SEVEN
SEVENは、サイコムと同じくベースマシンをカスタマイズして注文できます。秀逸なのがBTOカスタマイズの画面。各パーツの項目には製品の写真や特徴を示す画像、スペックなどが表示されるのでパーツ選びがしやすいです。
また最初に選択したケースに収まらないサイズのパーツには警告が表示されて選択できなくなるなど、誤ったパーツ選びを避けられる仕組みもあり、注文システムに力が入っています。パーツの選択肢も豊富です。(サイコムの注文フォームも物理的に干渉する場合には警告が出るようになっていますが、SEVENの方がより見やすいと思います。)
ツクモ
ツクモは一般的なBTOパソコンに加えて、一律2万円弱でパソコンの組立代行サービスを提供しています。通常、BTOパソコンは価格にはそれなりの手数料が含まれるので、構成によっては結構高くなることもありがち。パーツ代+一律の手数料というのはありがたいです。
好きなパーツを選んで組立代行を行ってもらえるので自由度は高いのですが、パーツ選定の基礎知識が必要になるため、中・上級者向けのサービスといえるかもしれません。
ちなみにRTX3070購入時に自分のミスでケースに入らない製品を購入してしまったのですが、サポートの方に大変素晴らしい対応をしていただいて好感度が爆上がりしました(笑)
2021年はApple Silicon Macにも注目
本記事はWindowsパソコンについて書いていますが、Apple Silicon Macには個人的に大きな期待を寄せています。2020年末に発売された最初のApple Silicon Macは、エントリークラスにも関わらず驚異的な高性能で、省電力、低発熱、静音でありながら従来の同クラスMacよりも価格が抑えられているという信じられないものでした。レビューも書いているので、興味がある方はご覧ください。
Macはユーザーによるパーツ交換や増強がほぼ不可能というデメリットがありますが、Apple Silicon Macはその仕組みから自由度はさらに低いです。しかしパーツの選定に頭を悩ませる必要がなくなれば、CG・映像制作という本来の目的に集中できます。
同クラスのWindowsマシンと比べて高額といわれてきたMacですが、Apple Silicon Macのエントリーモデルは同一の旧モデルより価格が下がっており、またWindowsのミドルクラス並に高性能で、今後のミドル・ハイクラスのMacも同クラスのWindowsの性能を大幅に上回るかもしれません。そうなれば、コスパは逆転しそうです。
現実的にはWindowsでしかできないこともあり、Macだけでは難しい場面もありますが、メイン機になり得る可能性は大いにあります。2021年はより上位のApple Silicon Macが登場予定なので要注目です。
C3Dが考えるCG・映像制作用パソコンの選び方 2021年版
CG・映像制作用パソコンの選び方は、次のような基本に関しては2019年に書いた記事と変わりません。
- マシンの購入はBTOショップがお勧め
- スペックは2〜4年で陳腐化することを踏まえて考える
- 用途や目的を絞れば、マシンスペック(=費用)は抑えられる
- 予算は目的や使い方次第
2021年は、2年前と比較してCPUやグラフィックボードが高性能化、SSDの高速化などの進化はあるものの、マシン構成によっては今でも十分通用します。私は2018年末に購入したマシンを増強しながら使っており、いまのところは問題ありません。ただしCG案件がもっと増えてメインになってくるようなら、Ryzen9 + RTX3090並みの処理能力は欲しいところです。
いわいのマシンスペック(2018年末に購入、メモリとSSD・HDDを増設し、グラボをアップグレード)
- 購入時の価格: 約245,000円(税込)
- CPU: AMD Ryzen 7 2700X(3.7GHz 8コア 16スレッド)
- RAM: 64GB(16GB x4 / 購入後に16GB x2を増設)
- SSD: M.2 500GB(システム用)
- SSD: SATA3 500GB(キャッシュ用に増設)
- HDD: SATA3 4TB x2(データ保存とバックアップ用にSATA3 1TBから変更)
- GPU: RTX3070 8G (GTX1070ti 8Gから変更)
- マザーボード: B350
- ケース: GALLERIA オリジナル
- 電源: 80 PLUS Titanium 800W
Windowsは順当な高性能化という印象ですが、Apple Silicon Macは、大幅に進化しました。発売前は性能向上への期待は低く、ソフトウェアの互換性に対する不安の声が多かった印象ですが、蓋を開けてみると圧倒的な高性能。実際にApple Silicon 搭載のMacBook Airを購入し、Cinema 4D、MODO、ZBrush Coreなどを試しましたが、エントリークラスにも関わらず、上記のWindowsマシン並に快適に動きます。Apple信者なので、次にパソコンを大幅にアップデートするときはWindowsではなく、Apple Silicon Macがよいです(笑)。
CG・映像制作用パソコンの選び方のアップデート記事を書くのは、また2年後ぐらいになると思いますが、そのときはすべてのMacがApple Silicon版になっているはずです。Apple Silicon Macの上位機種は、期待どおりの高性能になっているのか、対抗するWindowsはどのように進化するのかなど、次の2年では今回よりも大きな動きがありそうなので、いまから楽しみです。