M1 MacBook Airは予想を超える高性能でCGソフトも快適に動く

M1

2020年末に発売された通称「M1 Mac」は、その性能の高さから普段は手厳しいメディアも絶賛。ベンチマークではエントリーモデルとは思えない驚異的な数値を叩き出しています。

M1 Macはなぜ飛躍的に高性能になったのか、CGソフトの使用感はどの程度のものかなど色々と調査・検証してみました。

Apple Silicon(M1)とは

M1
AppleがMac用に開発したM1チップ

Apple Siliconは、Appleが開発したSoC(system on a chip)とSiP(system in a chip)の総称(Appleシリコン – Wikipedia)。iPhoneやiPad用には「A14 Bionic」のようなAで始まるシリーズ、Apple Watch用は「Sシリーズ」など様々な種類があり、このたび初めてMac用として開発されたのが「M1」です。M1は1つのチップにCPU、メモリ、GPU、ニューラルエンジンなどが組み込まれています。

Apple M1 チップ
M1チップにはCPUやGPU、メモリなどが統合されている

Intel CPUが複雑な命令を処理する「CISC(Complex Instruction Set Computer)」であるのに対して、Apple M1は単純な命令を処理する「RISC(Reduced Instruction Set Computer)」という命令セットを採用。

過去の時点ではCPUに様々な処理をさせられるCISCが合理的だったようですが、M1はCPUはじめ各パーツに得意な処理を割り当て、それらを連携させることで高性能化に成功しており、その考え方は一変するかもしれません。

M1によって、MacはiPhoneと同様にOSからハードウェアに至るまで、Appleがすべてを開発することになりました。これによりAppleは、Intel CPUの性能や開発速度に左右されること無く、自社内のソフトウェアとハードウェアの開発者が、Macの性能を最大化するために取り組めるようになります。

M1 Macはなぜ飛躍的な性能向上を遂げたのか

M1 Macの性能の高さは凄まじく、Engadget JapanによるとMacBook Air 8GB RAMモデルのGeekbenchの結果は、シングルコア性能はすべてのIntel Macを超え、マルチコアでも最新のMac Proに次ぐ性能。ちなみにMacBook AirとMac Proの価格差は税込50万円以上です。

Appleシリコン版MacBook Air、速度は最上位16インチMacBook Pro超え?ベンチスコアが発見|Engadget Japan

従来のパソコンは、OS、CPU、メモリ、GPUなど別々の会社が開発したソフトやハードによって構成されているため共通の規格が必要となり、そのような仕組みの上でデータをやりとりすることによる損失が生じます。

一方、AppleはM1チップにそれらのパーツを統合し、各パーツの連携が円滑に行えるようにしたことで処理を高速化。M1のようなSoCには、小型、軽量、高速、省電力などのメリットもあります。では他社もパソコン用のSoCを作ればよいのではと思いますが、回路設計や製造は容易ではないそうです。

SoC(システム ・オン・チップ)とはどのような半導体製品か?|CoreContents

その点、AppleはiPhone、iPadなどのSoCやSiP採用デバイスを長年に渡って開発しており、販売数も膨大。世界中から得られた情報を元に製品に磨きをかけ続けています。

またハードウェアだけでなく、ソフト(OS)も自社開発というのもAppleの強み。「OSだけ」「ハードだけ」であれば、高度な技術力を持った会社はありますが、それらを統合し、高いレベルで形にできるのはAppleだけで、それがM1の性能を押し上げられた最大の理由といえそうです。

2020年には、Mac mini、MacBook Pro、MacBook Airという3種類のM1搭載Macが発売されましたが、これらはエントリーモデル。Apple Silicon搭載の上位モデルがどれほど高性能になるのかが期待されます。

現在のパソコンの仕組みでは性能を上げるのは限界?

CPUはシングルコア性能の向上が頭打ちになってくると、コア数が増えるようになってきました。しかしソフトウェアの処理はシングルコア性能に依存する部分も多くあり、またコア数の多さではGPUが圧倒的。コンシューマ向け製品では、CPUコア数が多くても数十個なのに対して、GPUのコア数は数千個と桁違いです。

GPUは毎年大きく性能が向上してるものの、それにともなって物理サイズが大きくなり、必要電力も上昇しています。

一方で新設計のM1 Macは、高性能なのに省電力。既存の仕組みのままでパソコンの性能を向上させるのは限界になってきているように思えます。

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M1 Macの強みと課題

M1 Macには、次のような強みがあります。

  • 高性能
  • 省電力
  • 低発熱
  • 静音(ファンレスモデルなら無音)
  • 低価格

iPhoneやiPadのような小型・軽量デバイスに使われてきたApple Siliconは、消費電力が低いうえに発熱もしにくく、M1 MacBook Airはファンレス化されました。ネット上のレビューによるとファン搭載のMacBook ProやMac miniも重い処理を長時間行ってようやくファンが回りだす程度のようで、発熱はかなり抑えられているようです。

Appleのテストでは、M1 MacBook Airは内蔵バッテリーだけで18時間のムービー再生が可能で、省電力性能も大幅に向上。日帰りの出張程度なら、満充電しておけば電源ケーブルは持ち歩く必要がなくなりそうです。

M1はパワフルで省電力
M1はワット当たり世界最高のCPU性能

M1 Mac発売前は、Intel Mac用のソフトが動作するのか不安という声も多くありましたが、Rosetta 2(M1 Macにネイティブ対応していないソフトを動かすためにAppleが用意したソフト)が非常にうまく機能しており、動かないソフトは、ほとんどありません。

さらに従来のMacよりも低価格になっており、Intel Macの中古市場での価格は大きく値下がり。リセールバリューの高さはMacの魅力の1つですが、このままIntel Macを持ち続けていても数年後にまともな価格で売れそうになかったので、2019年に7年ぶりに買い替えたばかりのMacBook Airを、わずか一年で手放しました…涙

無双状態のようなM1 Macですが、次のような課題もあります。

  • 外付GPU(eGPU)が使えない
  • 外部モニターの接続台数に制限がある
  • 外部モニターでの発色に問題がある
  • 接続ポート数が少ない

CGソフトではGPUが欠かせなくなっているので、外付GPUが使えないのは非常に残念。外部モニターは、Mac miniであればThunderboltとHDMIの各ポートを使えば、2台のモニターに出力可能ですが、MacBook Air / Pro では1台まで。

外部モニター接続時の課題については、EIZOがいち早く情報を出しています。

Apple M1チップ搭載MacとEIZOモニターの互換性 | EIZO株式会社

外付GPUやモニターの接続台数、接続ポート数は仕様なのであきらめるしかありませんが、外部モニターの表示に関してはOSのアップデートで改善されそうなので対応待ちですね。

CGソフトにとって最大の懸案はGPU対応

M1 Macmini
M1 Mac mini

主要なCGソフトやレンダラーはNVIDIAのGPU(グラフィックボード)に最適化されていますが、最新のMacではNVIDIAのGPUが使えません。

2019年のWWDC(Appleが開催している開発者向けのイベント)では、主なCGソフトやレンダラーの開発会社がMetal(AppleやAMDのGPUでサポートされているローレベルなコンピュータグラフィックスAPI)をサポートすることを発表しましたが、対応に時間がかかっています。

WWDC
2019年のWWDCで主要なDCCツール開発元のMetal対応が発表された

Apple Silicon Macがいかに高性能でも、GPU対応が進まなければ主流となっているGPUレンダラーが使えません。CGクリエイターにも根強いAppleファンはおり、Apple Silicon Macの性能はWindowsメインのクリエイターを振り向かせるだけの魅力もあると思うので、Apple、AMD、CGやレンダラー開発元にはできるだけ早く対応して欲しいと思います。

M1 MacBook AirでのCGソフトの使用感

期待が膨らむM1 Macですが、実際の使用感はどんなものでしょうか。M1 MacBook AirとWindowsデスクトップで検証してみました。

M1 MacBook Air とWindowsマシンのスペック

検証に使ったMacBook AirとWindowsデスクトップの性能は次のとおり。M1 MacBook Airはエントリーモデルという位置づけですが、Windowsマシンはミドルスペックぐらいで重めの作業にもある程度耐えられます。

M1 MacBook Air

  • OS: Big Sur
  • CPU: 8コア
  • メモリ: 16GB
  • GPU: 8コア
  • ストレージ: 1TB

Windowsデスクトップ

  • OS: Windows 10
  • CPU: Ryzen7 2700X(8コア)
  • メモリ: 64GB
  • GPU: RTX3070(8GB RAM)
  • ストレージ: サムスン 970EVO(NVMe SSD)

M1 Macはソフトの起動が高速

まず驚いたのが、ソフトウェアの起動速度。Safariの起動はあまりにも速く、前年(2019年)発売されたIntel MacBook Air(メモリ16GB)の動作がスローに見えます。

Photoshopの起動もM1 MacBook Airの方がWindowsマシンより速いです。ちなみにPhotoshopは、M1 Macにネイティブ対応していません。

2021年1月現在、Adobe CCのソフトをインストールしようとすると「Intel ベースバージョンのPhotoshopをインストール」というメッセージが表示され、ネイティブ対応前であることがわかります。

M1 MacにAdobe系ソフトをインストール
M1にネイティブ対応していないAdobe CCソフトをインストールする時の画面

MODO902の一部動作はM1がWindowsを凌ぐ

MODO902で52万ポリゴンのデータを開いて、動作やレンダー速度を検証。MODOはダブルクリックでポリゴンを全選択できますが、Windowsではクリック後に数秒のもたつきがあったのに対して、M1 Macは瞬時に選択でき、反応の良さはWindowsを上回りました。

プレビューも実に軽快でWindowsと変わりません。レンダリング結果はWindowsの1分53秒に対して、M1 Macは2分6秒(何度かレンダリングしたところ、レンダリング時間にぶれがありました)と、わずかにWindowsが上回ったものの、エントリーモデルのM1がここまでの結果を出すことが信じられません。

ネイティブ対応したCinema 4DはM1のレンダー速度がWindows超え

同じデータをCinema 4D R23でも開いてみました。Cinema 4D R23は、M1 Macにいち早くネイティブ対応しています。

M1搭載のMacでMaxon Cinema 4Dがすぐにご利用|Maxon

Cinema 4D標準のフィジカルレンダーでテストしたところ、MODOと同じくレンダリング時間にぶれがありましたが、最速でM1 Macは27秒、Windowsは29秒と、わずかながらM1が上回るというまさかの結果に。M1恐るべし!

Cinema 4Dでは1ファイル2GB近いデータ(CADデータを変換したもの)でも検証してみましたが、さすがにここまでの大きさになるとM1ではもたつくことがあったものの、ちゃんと扱えました。

現時点ではRedshiftやOctaneなどのGPUレンダラーを試せないのが残念なところですが、大いに期待できそうです。

ZBrushCoreも快適に動作

スカルプト系の検証としてZBrushCoreを試してみました。ベースモデルのサブディビジョンレベルを6にしても、もたつきは無く、スカルプトも快適。ちなみにIntel MacBook Air 2019(メモリ16GB、ストレージ128GB)でSculptrisを試したときは、起動できないこともありました。

M1 Macの体感はiMacやWindows中級機と同等かそれ以上

2018年にCG用としてWindowsデスクトップを導入する前は、iMac 27インチ Late2015がメインマシンでした。スペックは次のとおりで、PhotoshopやIllustratorを同時に起動してももたつくことは無かったです。

  • Core i5 クアッドコア Intel 3.3GHz
  • 24GBメモリ
  • AMD Radeon R9 M290(2GB GDDR5)
  • SSDストレージ

M1 MacもそのiMacと同じかそれ以上の体感速度があります。また今回比較したWindowsマシンとも同等の軽快さでした。

映像系のクリエイター達が、M1 MacでFinal Cut Pro、DaVinci Resolve、Premiere Proなどを使って4K映像の動画編集をしたり、高負荷レンダリングをしたりしています。

さすがに4K 120FPSなどの大きなデータの編集などではプレビューでコマ落ちなども出ていますが、何度もいうとおりM1 Macはエントリーモデル。そこまでの高負荷テストの対象になること自体がM1 Macがいかに高性能であるかを示しているといえますね。

M1 Macは予想以上の高性能、Apple Silicon Mac上位モデルに大きな期待

M1 Macがいかに高性能とはいえ、高いハードウェア性能が必要なCGソフトに関しては「エントリーモデルにしてはよく動く」というぐらいだろうと予想していました。しかし実際には予想を遥かに超える高性能ぶり。M1にネイティブ対応したCinema 4Dでは、わずかながらレンダリング速度がミッドレンジのWindowsを上回りました。

現時点ではCGソフトやレンダラーが対応していないため、GPU性能を試すことができないのが残念なところですが、こちらもミドルレベルぐらいの性能は発揮するのではないかと期待しています。

MacBook Airは、文章を書いたり、外出先でプレゼンをする目的で購入しており、CGソフトは軽めのデモぐらいができればありがたいとしか考えていませんでしたが、期待値を超えすぎて笑ってしまうレベル。

ハイエンドCPUは50万円以上、同様にGPUは20万円以上の製品もあり、電力も300Wを超えるなど、価格、消費電力、そして物理サイズも肥大化の一途。

しかし今回検証したエントリーモデルのM1 MacBook Airは低価格で省電力、小型なのにミドルレンジWindowsマシン並みの高性能。eGPU非対応なのは残念ですが、ミッドレンジ、ハイエンドのApple Silicon Macであれば、eGPU無しでも十分な性能を発揮してくれるかもしれません。

Appleは、2年かけてすべてのMacをApple Silicon化すると発表しており、予定どおりに進めば2023年までにはApple Silicon搭載のMac Proが登場するはずです。その頃には主要ソフトのMetal対応も完了していることでしょう。

再びMacをCG用のメインマシンにできる日は近い!Apple Silicon Mac Pro導入に向けて、いまから貯金しておきます!