Apple Vision Proは期待をまったく裏切らない完成度だった

Vision Proで映画体験

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

アメリカで発売されてからまだ一週間も立っていないApple Vision Proを幸運にもいち早く体験させてもらいました。一言で表すなら「デモ映像のまま」で、デバイスの質感や性能、UI、画質、音など、圧倒的な品質で未来を感じさせるプロダクトでした。

デバイスの質感は高く、ヘッドバンドは調整しやすくホールド感も抜群

iPhoneで世界を変えたAppleが新たな製品カテゴリーとして位置付ける製品だけあって、Vision Proの作り込みは秀逸。VRゴーグルはプラスチック系素材が主流ですが、Vision Proは本体部分に曲面ガラスとアルミを採用し、高級感があります。

目の周りを覆い隠すライトシールの外側はファブリック(織物)系で、顔に直接触れる部分には柔らかなクッション素材が用いられています。ライトシールそのものはマグネット式で簡単に脱着可能。

本体と繋がっている白いバンド部分はサラサラのシリコーンのような素材で、スピーカーを搭載。電源ケーブルもこちらのバンドに接続されます。白いバンドには後頭部を支えるヘッドバンドが接続されていますが、こちらは内側にあるオレンジ色のタブを引くだけで簡単に外れました。

またヘッドバンドは伸縮性のある柔らかい素材で優しく頭を包み込んでくれますが、驚いたのはそのホールド感。重い本体をきちんと支えられそうに見えないのですが、ダイヤルを回すとしっかりと頭をホールド。その安定感に驚きました。

Apple Vision Pro
質感の高さは安定のAppleクオリティ

ライトシールを取り外すと、Vision Pro本体が非常にコンパクトであることがわかります。ガラスとアルミの組み合わせでなければもっと軽量化できそうですが、強度的には安心感があり、その点は他のApple製品と同様かなと。

Apple Vision Pro
ライトシールを外すと本体のコンパクトさがわかる

Apple製品との親和性、高精度なアイトラッキングに裏打ちされた自然な操作感

Vision Proにはゲストモードがあり、所有者以外の人も利用可能。装着すると案内が表示され、様々な調整を行っていきます。目の前に表示された手のイラストに腕を伸ばして手をかざしたり、空間に表示される小さな円を見つめては、親指と人差指をくっつけるジェスチャーを繰り返したり。

最初に表示されるホームビューには、Apple製品のユーザーにはおなじみのアイコンが並びます。つながりを感じさせるのは見た目だけではなく、操作も同様。見つめたアイコンが少し浮き上がったときに、指を使ったジェスチャーによって、アプリが開きます。アイコンのデザインやホームの見た目はiPhoneやiPadなどと同様。そこで慣れているタップ操作に置き換わるのがジェスチャーなわけですが、UI的にはほぼ同じなため、初めてでも非常にスムーズに操作を覚えられます。

Vision Pro Home View
iPhoneやiPad、Macと同様のアイコンが並ぶホームビュー

最初は思わず手を目の前に上げて、アプリを触るようにしてジェスチャーを行ってしまいましたが、徐々に慣れてくると腕を肘掛けにおいたまま、リラックスした状態で操作できるようになりました。アイトラッキングの精度やジェスチャーの反応がほんの少しでも悪かったりすると途端に違和感を覚え、体験が損なわれることは容易に想像できます。シンプルさを支える高度な技術や洗練されたUI設計などをヒシヒシと感じました。

大画面と臨場感のある音声で楽しめる映画は、劇場やホームシアター以上

ホーム画面の時点で感動してしまったのですが、本当のお楽しみはここから。映画好きとしては絶対に外せなかったDisneyプラスやApple TVなどの映画コンテンツの視聴。今回はスター・ウォーズなどを見させてもらいましたが、言葉を失いました。

映画の再生が始まると、周囲がスーッと薄暗くなります(完全にブラックアウトはしません)。スクリーンは好きなところに配置でき、大きさも自由自在。音も立体的で臨場感たっぷり。耳をふさいでいないので長時間利用でもストレスはありません。ボリュームが大きいと音漏れはしますが、イヤホンも使えるので公共の場などでも問題なし。各レンズが4K超えの解像度を持っているとのことで、画質も非常に高精細。

劇場はスクリーンサイズは大きいけど、よい席が選べるとは限りません。サラウンドスピーカーは席によって聞こえ方が変わったりします。ホームシアターなら自分好みの空間を作れますが、複数のスピーカーを用意したり、専用の部屋を作ったりと、こだわれば青天井にお金がかかる世界。

Vision Proなら、わずか50万円程度でホームシアターが手に入ると考えると、もしかすると安すぎなのではという気持ちが芽生えます(キケン)。しかも自宅だけでなく、電車や飛行機など、あらゆる場所で使えるわけで、映画好きにとっては完全に神デバイスです。

Vision Proで映画体験
圧倒的な映画体験で完全に整ってしまった

アイトラッキングの精度を生かした、リアルタイムレンダリングの独自コンテンツ

Vision Proの性能を見せるべく用意された専用のコンテンツ「Encounter Dinosaurs」では、リアルタイムレンダリングで恐竜などが描かれ、高精度なトラッキング技術を活かしてCGの蝶が自分の指にとまるというデモもあります。デモ映像自体は知っていたものの、自分の指に蝶がとまるのを目の当たりにすると、指に触れられたような錯覚すら感じました。

つい忘れてしまうのですが、Vision Proは完全に目を覆い隠しています。しかしVision Proのカメラ越しに見える映像が肉眼で見ているものと遜色ないため、目が塞がれているとは感じません。自分自身の体も当然カメラ越しに見ているものですが、映し出されるものと自然に重なっていて不自然さはありません。もちろん凝視すれば手の部分を切り抜いていることはわかりますが、目の前の操作をしているときには気付かない程度です。

ちなみにEncounter Dinosaursは、Appleとジョン・ファヴロー(マンダロリアンの制作や、アイアンマンへの出演など、制作者としても俳優としても有能な方)が共同開発したそうです(ネタ元: Apple純正Apple Vision Pro専用インタラクティブアプリ「Encounter Dinosaurs」恐竜と対面)。さすがすぎる。

Vision Pro Tracking
映像の蝶が指にとまったときに触られたような錯覚があった

20〜30分程度の着席状態での利用では、Vision Proの重さは気にならなかった

先行レビュアー達が課題として挙げていたVision Proの重さですが、ホールド感が優れていて、座った状態で20〜30分程度使っただけでは気にならず、首や肩の疲れなども感じませんでした。ただ体験が終わってVision Proを外したときに頬骨のあたりには若干のストレスがあったため、歩いたり、もっと長時間使ったりすると、少し痛くなったりするかもしれません。

バッテリーパックは重めではありましたが、座って使うときは机などに置いておけるし、持ち歩いたとしてもパンツのポケットに入れておけば気にならないと思います。

個人的に気になっていた蒸れやレンズのくもりですが、こちらはまったく問題なし。空調の整ったオフィススペースでの体験だったからかもしれませんが、こちらに関しては課題として上がっている話を聞かないので対策されているのかもしれません。普通にすごいと思います。(追記: Vision Proは冷却ファンを内蔵しているようです。確かに本体上部にはダクトのような穴がありました。これなら蒸れないのも納得です。)

Tim Cookが語っていたVision Proの設計思想

Apple CEOのTim CookはABCニュースのインタビューで、Vision Proについて次のようなことを話していました。

It’s often said that any form of virtual reality will need a “killer app” to make a VR product viable. In describing all the capabilities of Vision Pro, Cook says that “it’s not about one thing, it’s a platform.”

Vision Pro isn’t just about VR, however, as Apple has made it its ultimate augmented reality platform as well. Still, a challenge with any use of virtual reality is becoming isolated from the actual reality around you.

On that point, Cook says that not contributing to isolation was a “major design point” when creating Vision Pro. “This is not about isolation; this is about connection. This is about having people there that feel like they’re there with you.”

(どのような形のバーチャルリアリティであれ、VR製品を実現させるには「キラーアプリ」が必要だとよく言われる。クックは、Vision Proのすべての機能について説明する中で、”それはひとつのものではなく、プラットフォームなのだ “と述べている。

しかし、Vision ProはVRだけのものではなく、アップルは究極の拡張現実(AR)プラットフォームでもある。それでも、仮想現実を利用する際の課題は、周囲の現実から孤立してしまうことだ。

その点についてクックは、孤立を助長しないことがVision Proを作る際の「主要な設計ポイント」だったと言う。「これは孤立のためではなく、つながりのためです。これは、そこに一緒にいるような感覚を持つ人々がいるということなのです。」)

Tim Cook talks Vision Pro price, isolation, ChatGPT, and more in ABC News interview [Video] | 9 to 5 Mac

Vision Proはプラットフォームそのものが、いわゆるキラーアプリに該当するという話は実際に体験してみるとよく理解できます。Vision Proは常に周囲の環境が見える状態になっていて、表面に所有者の目(アバターの目)を映すなど、周りとのつながりや孤立を防ぐことに対して細心の注意を払っていることもわかります。

映画などは現状では複数人で楽しむことはできませんが、iOSデバイスにはすでにSharePlayという複数人で音楽や映像を楽しめる機能が実装されており、孤立を助長しないことへの配慮もあり、近い将来、Vision Proも対応するのではないでしょうか。

Vision Pro越しに周囲を見ると少し薄暗いのですが、これは輝度の問題だそうで、肉眼で見るのと同じ明るさを実現するのは現段階ではかなり難しいようです。

Vision Pro はCG制作に役立つのか

Vision Pro and Mac
ゲストモードでは、Mac の外部モニターとしてVision Proを使えなかった

今回、Vision ProでCinema4Dを体験するためにM1 MacBook Airを持参しましたが、残念ながらゲストモードでは持ち込んだMacの外部モニターとしては使えませんでした。残念。

現状ではVision ProをMacの外部モニターとして使えますが、出せる画面は1つだけ。ただ、どこででも高解像度な大画面を利用できる魅力は大きいです。

Vision Proはハンドジェスチャーだけではなく、物理的なキーボード、トラックパッド、ゲームコントローラも使えるので、既存CGソフトの複雑な操作も快適にできそう。またVision Proに最適化されたCG系ソフトが出れば、これまでとは違った制作スタイルも生まれるかもしれません。

Windowsで使えないということもあり、CG制作では主流になることはないかもしれませんが、特定の領域において業界標準的な位置付けになるということは有り得るかなと思います。

Vision Proは期待をまったく裏切らない完成度の高さだった

Vision Proを実際に体験して、次のようなことがわかりました。

  • 目の前に映し出される画面や映像は非常に高精細
  • 高級イヤホンと同等の高音質
  • アイトラッキングやハンドジェスチャーの精度が高い
  • 短時間利用では、重さはそれほど気にならず、蒸れもなかった

大いに期待してVision Proの体験に臨みましたが、それがまったく裏切らないところはさすがAppleというしかありません。レビュアー達が絶賛していた理由がよくわかりました。

私のようにMacとiPhoneをメイン端末として使っているものからするとVision Proは親和性も高く、非常に魅力的。ただ開発者のようにVision Proをビジネスに直結させられないのであれば、経済的な余裕がないとちょっと厳しい価格であることもまた事実。品質を最優先した結果だとは思いますが。

現在はアメリカでしか販売されていませんが、2024年後半には日本でも販売が開始されるという噂。これが本当なら発表の場は6月のWWDCあたりでしょうか。う〜ん、悩ましい…