実写合成で使うVFXボールを自作してみた

VFXボール

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

CGを実写合成するときに使われるクロームボールとグレーボール。海外ではVFXボールなどとも呼ばれるようです。そのVFXボールの作り方が公開されていたので作ってみました。必要な材料や道具とその費用、作ってみた感想などをまとめておきます。

市販のVFXボールは高額

最初はVFXボールをネットで購入しようと考えていましたが、日本では見つけられず、海外サイトを検索したところAli Expressで販売されていることがわかりました。

が、高い!安価なものでも3万円以上、高いものだと15万円ぐらい。高額なものはボールの直径も20cmと大きく、専用箱や三脚用アダプターにカラーチャートも付属。ニッチな商品であることも考えると、この価格が法外に高いとは思わないものの、明らかにプロ用な感じで、頻繁に使わなければ割に合わないし、どこまで信頼できるものかもわかりません(商品の中に実際に何が含まれるのかウェブを見てもよくわからない)。

さてどうしようかと思ってネットをウロウロしていたときにVFXボールの作り方について書かれた記事を見つけました。

ネットの記事を参考にVFXボールを自作することに

VFXボールの作り方について書かれた記事はこちら。

18%グレーボールの作り方|CGcompo

書いていらっしゃるのは、CGSLAB L.L.C代表の方です。CGSLAB L.L.Cは、CG制作などを技術面でサポートされているプロフェッショナル。当然、記事の内容も信頼感があります。材料や作り方に加え、細かな注意点も書かれており、これなら自作できそうと考えてやってみることにしました。

VFXボールの材料

まずはCGcompoさんの記事を参考に材料集め。個人用に1セットだけ作っても塗料などが余るため、少し多めに作って販売することにしました。制作費も回収できるし(売れればだけど…)。

ステンレス球

ステンレス球はAmazonで購入。3個1セットで、700〜1,000円ぐらい。もう少し大きめのものが欲しかったのですが見つからず、直径7.6cmのこちらの商品にしました。ちなみに14セット(42個)購入しましたが、幾つかは穴あけに失敗しました。

MerryNine 304ステンレス鋼凝視ボール、鏡面研磨中空ボール、屋外庭園用ミラー装飾ボール、池、屋内家具装飾 (76mm, ステンレス鋼の原色)
MerryNine

ピカール(研磨剤)

ステンレス球を磨く研磨剤。一番小さなサイズを選びましたが、かなり余りました。

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ピカール
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ミッチャクロン マルチ(塗料の定着剤)

塗装が剥がれやすいステンレスに塗料を定着させるためのもの。そんなのがあるんですね。こちらもかなり余りました。研磨剤は別用途でも使えそうだけど、こちらは転用が難しそうね…

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染めQテクノロジィ(Somay-Q Technology)
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ガイアカラー 073 ニュートラルグレーIII、074 ニュートラルグレーIV

グレーボール用の塗料。2種類を混ぜ、薄め液で2〜3倍に希釈すると18%グレーに近い色が作り出せるとのこと。Amazonでは073の方が売り切れており、ヨドバシカメラで購入。塗装時に足りなくなって再びヨドバシにアクセスするも、073が売り切れ!販売元(ガイアノーツ)のオンラインショップでは取り扱いなし。終わった… と思ったけど、ビックカメラで在庫発見。ちなみに合計3セット購入し、1セット余りました。調整難しい…

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Ex-04 [ガイアノーツ Ex-フラットクリアー]、薄め液

グレーボールをつや消しにするための塗料と、グレーとつや消し塗料を希釈するための薄め液(シンナー)。つや消し塗料は2本買って1本余り、薄め液は50mlの小サイズを3本買ってほぼ使い切りました(リンクは中サイズ)。薄め液は塗料の付いた容器の掃除にも使っているので、少々多めでも問題ありませんでした。

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GSI クレオス(GSI Creos)
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VFXボール制作に使用する道具

VFXボールは、カメラ用三脚の1/4ネジに取り付けられるようにするためにステンレス球に穴を開け、ネジ山を切る必要があります。ドリルやタップは購入し、タップ用のハンドルなどは手持ちの道具を使用。エアブラシを持っていなかったので、使い切りの塗装用スプレーを購入しました。

穴あけ用ドリル、ネジ切り用タップ、タップハンドル

ステンレス球に穴を開けるためのドリルと、開けた穴にネジ山を切るためのタップ。タップは近所のホームセンターで購入。タップ用のハンドルは手持ちのものを使いました。

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不二越
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ホーザン(HOZAN)
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卓上ボール盤

ボール盤は、ステンレス球に穴を開けるときに使います。私は持っていなかったのでハンドドリルで代用しましたが、球形で、固く、滑りやすいステンレス球の穴あけにハンドドリルを使うのは危険です。私は工具の扱いに慣れていますが、ドリルがぶれないようにするために腕力と集中力が必要でした。もしも次に同じ作業をするなら、ボール盤を購入します。

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髙儀(Takagi)
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イージーペインター(塗装ツール)

イージーペインターは、簡易エアブラシのようなツールで、好きな塗料を入れてスプレー塗装ができます。初めて使いましたが、使い勝手は非常によかったです。

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ガイアノーツ(Gaianotes)
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イージーペインター スペアカートリッジ

イージーペインター用エアーのスペア。最初は1セット購入し、イージーペインター本体と合わせて3缶で塗装を始めましたが足りず、もう1セット追加購入。1缶余りました。

イージーペインター用 スペアボトル

イージーペインターの塗料ボトルのスペア。本体付属のボトルを掃除して使おうとしましたが、グレー塗料の色を拭いきれず、その後に使うのがクリア塗料だったこともあり、諦めてこちらのアダプターを購入。2個セットだったので、1つ余りました。

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塗装時に利用する木の棒、布

塗装するときにステンレス球を刺して立てて置くために木の棒を使用。穴の直径が約5mmだったので、それよりも少しだけ細いものをホームセンターで探して必要な分だけ購入。540円ぐらいでした。ステンレス球を磨くときに必要な布は、余っていたものを使いましたが、もしも適切なものがなければ100均で入手可能です。

Nix Pro 2 カラーセンサー

高かったので悩みまくった末に購入したカラーセンサー。グレーボールの色が理想とする18%グレーにどこまで近づけているかを判定するために使用。ただ参照したCGcompoさんの記事には、次のように書かれています。

今回思った以上に精度の高い18%グレーを簡単に作成出来たので共有となりますが、前回記事で書いている通りグレーボールがそこまで高精度な18%である必要はありません。カラーチャートの方が大事でグレーボールは光源方向と影のレベルを確認する程度のものです。

Nix Pro Color Sensorを使えばどのような塗料でも簡単に高精度にCG上で色を再現出来きます。つや消し処理はしていますがそれでもスペキュラは乗るためCG上のグレーボールでもラフネス値の調整が必要です。

18%グレーボールの作り方|CGcompo

なのでカラーセンサーまでは必要ないかなと思いつつ、やるならばベストを尽くそうと思い購入。VFXボール制作のために購入した、すべての材料と道具の費用よりも高いです(汗)ただカラーセンサーは現実の物体をスキャンして色の数値(RGBだと幾つになるとか)を調べられるため、これからも活用できると思います(します!)。

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ステンレス球の穴あけ加工

さて材料と道具を揃えたところで、VFXボール制作開始。まずはステンレス球への穴あけから。これに全部穴開けてネジ切りするのかと思うと、作業前からまあまあ面倒くさい気分になります(笑)

VFXボール

穴あけに使うドリルとタップ。

VFXボール

めちゃくちゃ集中して穴開け・ネジ切りし、ステンレス球の中に入った金属片を取り出し、その後にすべてのステンレス球をピカールで磨きました(穴開け中の写真は撮り忘れました)。ボール盤があったら、もっと楽で安全かつ正確に穴開けできただろうなと思います。穴開け作業後、一週間ぐらいは手の一部にしびれが残ったぐらいにはハードでした。

クロームボールはこれで完成。グレーボールはここから塗装しますが、下処理として汚れや細かな傷は無い方がよいかなと思って磨きました。

グレーボールの塗装

グレーボールの塗装準備。まあまあ道具が必要になります。

VFXボール

ステンレス球を写真のように木の棒に刺したのは、塗装後に乾燥させるためです。

VFXボール

2種類のグレー塗料を混ぜ、薄め液で希釈し、撹拌したところ。混ぜてもすぐに分離してしまう… しかしここまで来て怯んでいてもしょうがないので、混ぜたものをすぐに塗料ボトルに移して塗装開始。

VFXボール

全体に薄く塗り重ねていったところ、ムラ無く塗装できたと思います。ただ塗装中に塗料やエアーが足りなくなったので初回作業時は一時中断。続きは追加の材料が届いてからになりました。

VFXボール

塗装時に重要なのはスプレー塗装の経験と場所。スプレー塗装のコツは、薄く少しずつ塗り重ねていくこと。より多くの塗料が必要になりますが、そうすることでムラ無く、均等に色を乗せることができます。一吹きで一気に塗ろうとすると色や塗料の厚みにムラができやすいです。

スプレー塗装では、霧状の塗料を吹き付けるため、周りに汚れが付着しないよう注意が必要。塗装用ブースが販売されていますが、ただの箱みたいなものだと、霧状の塗料がブース外に飛んでいく恐れがありそうです。吸気ファン付きの製品はそれなりの価格になります。

グレーボール塗装の最終工程、つや消し塗装。グレー塗装のときは1つずつ手持ちで塗装していましたが、くるくる回ってしまうことがあったため、専用台を作り、自分自身がグレーボールの周りを回りながらスプレーしました。

VFXボール

ついに完成したグレーボール。途中で塗料が切れたことなどもあり、まあまあ大変でした。

VFXボール

VFXボール作りにかかった費用や注意点

今回のVFXボール作りにかかった費用は、約6.8万円。うちカラーセンサーが約4.3万円だったので差し引くと2.5万円ぐらい。道具を何も持っていない前提で考えると、プラス1万円ぐらいなので、合計でざっくり8万円程かかると思います。カラーセンサー費用を差し引いてもざっくり4万円近く、その後に道具や余った材料を使うことがない場合は、かなり無駄が多いですね。

一番大変だったのは、やはりステンレス球の穴開け加工。最初は持っていた鉄用のドリルで穴開けを試みるも、まったく刃が立たず、ステンレス用のドリルにしたところ、うまくいきました。ステンレスはとても固く、滑りやすい球体への穴開けの難易度はかなり高かったです。

塗料は2種類を1対1で混ぜて希釈するという作り方でしたが、各色とも瓶に沈殿している量が異なるし、薄め液で2〜3倍希釈とのことでしたが、希釈することでどれぐらい色が変わるのか、また塗装・乾燥後に理想の色になるのかなど、やってみなければわからないことも多くありました。

次の画像はカラーセンサーの測定結果。左側がカラーチャートのグレー、右側が自作グレーボールをそれぞれスキャンした結果。左側と比べて、右側はやや濃いグレーになっていますが、まずまずの出来ではないかなと思います。(RGBが119に近いのが理想値になると思いますが、間違ってたら教えてください。)

18percentGray

万全を期すのであれば、調色→塗装→乾燥→測定を繰り返して行くことになりそうですが、塗装する量に合わせて多めに塗料を作ることと十分に撹拌することなどが重要になりそう。ただ繰り返しになりますが、そこまで完璧な18%グレーにする必要はないし、使っている間に色褪せたりもするため、今回ぐらいでも十分かなと思います。18%グレーはグレーカードを使って確認しましょう。

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銀一
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というわけで、非常にニッチなVFXボールのDIY記事でしたが、ごく僅かなマニアの方にでも刺されば幸いです(笑)